顧客起点マーケティングのコミュニケーションアイデア部分。
D2Cが生んだパラダイムシフト
ユニコーンになるような企業は、1年目で100億、2年目で200億、3年目で300~400億円程度の売上になる。技術障壁が下がり参入障壁も低くなっているため、数百万円の自己資金さえあれば、資金調達や借り入れをせずともブランドは立ち上げられる。しかし
、技術障壁が低くなったからこそ、D2Cブランド間の競争は激化している。急成長をしなければ、次々と登場する競合に顧客の認知を奪われ、簡単に市場から淘汰されてしまう。
2015年に創業しAwayの競合と目されていたスーツケースのD2CスタートアップRADENは、爆発的成長を志向せず、資金調達を最小限にとどめながらビジネスを展開していた。しかし、VCマネーをテコに急成長するAwayに太刀打ちできず、結局2018年にビジネスを畳む。
顧客は機能だけではなく感情を買おうとしている。マットレスを販売するCasperのフィリップ・クリムは以下のように言っている。
Nikeは、運動をするアクティブなライフスタイルを魅力的なものにし、Whole Foodsは健康的な食生活を誰もが手が届くものにした。運動、食事に加えて、睡眠がウェルネスの第3の柱になる。
コト付きのモノ
を売っている。スーツケースのAwayは旅と絡めてポップアップのホテルを開き、Casperは睡眠と絡めて25ドルで45分間の仮眠を撮ることができるThe Dreameryというデザイン性の高い睡眠スポットをニューヨークの中心部で展開している。
「機能」ではなく「世界観」を売る
インターネットやSNSの登場で、表現する枠は実質的に「無限」になった。Awayの創業者、ジェンルビオは以下のように言う。
Awayにおいてはいいプロダクトと悪いプロダクトを分けるのは感情。そして、なによりコンテクストが重要。
Awayはスーツケースではなく、旅のある暮らし
を売っている。広告をはじめとする認知の方法は刺激-反応モデル
から語りかけ-理解モデル
となり、より長いストリーの共有ができるようになった。
長期の関係を築く媒体。
- ポッドキャスト
- 雑誌
- Casper: 創刊号は17名の外部ライターと19名のイラストレーターを使って、30,000部を販売(woollymag)
- Away: スーツケース先行予約引換券付き225ドル、1200冊、10名弱の編集チーム
- 映像
プロダクトレイヤーだけではなく、ブランド全体のブランディング(価値観、世界観)の提示が重要になっている。ブランドのファンになってもらうと、販売前から「楽しみ」などの声でSNSが賑わい、販売後は「よかった」というようなコメントが散見される。
Apple, Nikeが良い例。
ミレニアム世代とZ世代は意義
を購入する。何を持っているかではなく、何をしているか。どのような志を持つブランドを支援しているかという購買意欲を持つ。
ブランドのメディア化、プロダクトのコンテンツ化が起こっている。意味レベルで価値を顧客に感じてもらうためにブランドは2つのことをしなければならない。
- 長尺コンテンツの制作
- コンテンツの継続的な、不断の発信
意味レベルで価値を持ったプロダクトは機能レベルで比較されない。思わず語りたくなるようなストーリーがあるか。
顧客の発信しようとする気持ちをエンカレッジするエンカレッジ・マーケティングのゴールは、顧客をエヴァンジェリストにすること。バズではなく継続的なコミュニケーションが必要。
「他人」ではなく「友人」に売る
眼鏡の試着などの一連のプロセスを機会だと捉える。インタラクションの増加はデータの増加につながる。例えば、以下のようなもの。
- 顧客が住んでいる地域
- トライされたアイテム
- その内、購入されたアイテム
- リピート購入率
- 一人当たりの平均購入個数
昨今、B2Bの世界でカスタマーサクセスという考え方が浸透してきている。カスタマーサクセスとは、商品の購入ではなく、顧客がしっかり製品を使い始め、それを継続して使うことをミッションとする取り組みのことをいう。顧客の問い合わせに答えるのではなく、あらかじめ顧客がボトルネックと感じるかもしれないプロセスをサポートし、顧客の円滑なサービス導入を手助けするのがカスタマーサクセス。返品対応や交換保証の扱いなどにあらわれる。
優しい
デジタルの3つの条件。
- 入手したデータの適切なフィードバック
- 場所・時間の制約からの開放
- コラボレーションの感覚を生む
経済合理性から離れれば離れるほど、心に響きやすくなる。
D2Cの戦略論
D2C企業はものづくり企業であると同時にメディア企業であり、tech企業である。
メディア企業たる所以は以下の通り。
- 編集方針(届けたいライフスタイル・世界観)を明確にする
- 世界観を様々なチャネルで伝える
- 個々のコンテンツではなく、雑誌そのものへのファンを作る
tech企業である所以は以下の通り。
- データを重要視する
- プロダクトを何度もアップデートする
- 顧客とIDでつながる
- 売上ではなくLTVを重視
- カスタマージャーニー重視
- UI/UXへの投資
- 指数関数的な成長を重視
メーカーとは全く異なるKPI、KGIの設定が行われる。店頭でも端末で購入してもらうとデータを取得することができる。
LTVは結果であって目的ではないため、LTVを最大化しようとしてメールを送り付けたりセール情報を送りつけたりしてはならない。目的とすべきは、顧客からの信頼
リスペクト
共感
愛着
という完成的価値の蓄積。さらにシンプルにいうなら愛されているか
好きと思ってもらっているか
カスタマージャーニーマップ(以下CJM)とは、製品やサービスの体験を、顧客の支店で時系列に表現したフローチャート。5Eというフレームワークがよく使われており、Entice(惹きつける、認知する)、Enter(サービスを申し込む、使い始める)、Engage(サービスを使用する)、Exit(サービスを使い終わる、お店から出る)、Extend(友達に伝える、再来店する)というものがあるが、これはスマートフォン以前のもの。
スマートフォン時代には4Aが使われる。
Awareness -> Attitude -> Act -> Actagain
スマートフォンに常時接続している時代になったので、5Aが提唱された。
Awareness -> Appeal -> Ask -> Act -> advocate
ファネル型の時代は終わり、ループ型の時代に入った。
Attract -> Engage -> Delight -> Share
マーケティングの4Pは4Eへと変容を遂げる。
Product -> Experience: 低品質にしていいという意味ではないが、商品は脱物質化していく。
Price -> Exchange: 購入という概念ではない。
Promotion -> Evangelism: いかに顧客自身が語り部となってくれるか。
Place -> Every Place
リアル店舗を出店する理由は、CPA(顧客獲得コスト)の低下とLTV(顧客生涯価値)の向上。SNS広告は値上がりして、リアル店舗の方が安くなってきている。後付デジタルは破綻してしまう。長いカスタマージャーニーを観察する仕組みを作る必要がある。
D2Cのビジネスモデルは3つある。
- 売り切り型
- サブスクリプション型
- SaaS + a Box型
VCが投資するD2C条件
- 差別化され、粗利が高い商品を提供している
- ゼロサム市場である(1人が複数ブランドを使い分けない)
- 既存プレイヤーが小売のみで販売しており、販売と直接の接点を持っていない
- 既存プレイヤーがマス広告に依存している
- 使用データが獲得でき、機械学習などでデータ分析の精度を上げることが可能なプロダクトやサービスである
顧客獲得を目標に据えつつ、インプレッションやクリック数、インストール数などの指標を見ながら、膨大な数のパターンから適切なキーワードのリスティングやSNS広告の投稿内容や時間帯、場所などをチューニングしていく。
D2Cの先にあるもの
成長の踊り場を迎えるD2Cブランド。一定の規模を超えると今までのオールドスタイルの戦い方に合わせて戦わなくてはいけなくなる。